若手医師からのメッセージ
「呼吸器内科について思うこと」須加原一昭
熊本大学医学部附属病院呼吸器内科のホームページを訪れていただきありがとうございます。
平成16年卒業の須加原一昭と申します。
私が熊本大学医学部を卒業した時は、何を隠そう初期研修のスーパーローテーションが必修化された1年目に当たります。もう10年前の話ですが、当時はいろいろな情報が錯綜して混乱をしていました。私はこれまで熊本から外に出たことがなかったこともあり、先輩を追って、関西の臨床研修指定病院で2年間初期研修を行いました。医師といえば内科医のイメージが強かったこと、またもともと不器用な自分の適性も考え、あまり手技が多くなく、だけどたまには検査や処置の機会もある呼吸器内科を選択することとしました。
最近は総合内科医がいろいろもてはやされる時代であり、私もそう考えていますが、それでもなかなか専門的に学ぶ機会、施設はまだまだ少ないのが現状です。ただ、呼吸器内科という分野は内科の中でも総合医に近い立場と考えています。感染症やアレルギー疾患などと言った比較的身近なものから、膠原病、悪性腫瘍、集中治療などといった専門的なものまで幅広く学ぶことができます。高齢者や悪性腫瘍など終末期の患者さまに関わり、幅広く全人的に診させていただくことで、自分自身の人生観や哲学を問われることも多く、とても勉強になります。気管支鏡検査や人工呼吸管理、胸腔ドレナージなどの手技的な機会も豊富にあります。
また、チーム医療が盛んになっている昨今、院内のICT(インフェクションコントロールチーム)やRST(呼吸サポートチーム)、NST(栄養管理チーム)、PCT(緩和ケアチーム)などに関わる立場となり、どこの施設でも頼りにされることが多いです。かつ、院内コメディカルスタッフのスペシャリストと共同で活動することにより、いろいろ勉強にもなります。何より院内でのコミュニティが増すことにより、自身のお仕事がやりやすくなること請け合いです。
いかがでしょうか?呼吸器内科に少しでも興味が芽生えた皆さん。まずはいつでも気軽に見学にいらしてみてください。聴診器1本、1枚の胸部レントゲン写真、血液ガス検査、肺機能検査などからさまざまな事象を推察する呼吸器内科ならではの深遠な世界へ皆さんをご案内します。
「呼吸器内科の魅力」徳永健太郎
呼吸器内科を専門に選ぶなんて学生時代には予想していませんでした。医学生や研修医にとっては、呼吸器内科はどんなイメージなんでしょう。あえて自虐的に言ってみましょう。「間質性肺炎とかいう得体のしれない病気を小難しい顔で議論している」、「肺炎なんて抗生剤やってれば何とかなるだろう」、「肺癌は治るわけでもなくてきつい」、「喘息は吸入処方するだけ」etc。
私は呼吸器内科に対してこれに近いイメージを持っていました。しかし学生時代の予想とは全く違って、臨床研修2年間の後に選んだ診療科は呼吸器内科になっていました。ちょっとしたことがきっかけにはなっていきました。気管支鏡を直接させてもらえる機会は多かったです。
呼吸不全は大変で難しいけれど、他の科よりも朝の出勤時間が少しのんびりしていました。呼吸器内科全体に地味ではないけど、派手でもない雰囲気を感じました。飲み会も外科系ほどは激しくないし、地味すぎたり高尚すぎたりすることもなかったです。自分が身をおく、日々の大半を過ごすところとして、呼吸器内科を考えたという側面もありました。疾患や治療としては、急性呼吸不全の人工呼吸管理が呼吸器内科を考えるきっかけではありました。ただ急性呼吸不全の人工呼吸管理であれば、麻酔科や集中治療、救急という専門からも十分に関われるとも思って、そっちの方面を進路として考えたりもしました。患者さんの話を聞いて聴診器を使って胸の音を聞く、という診療を救急外来や集中治療室の重症患者だけでなく、外来だとか慢性期でもやっていきたいという思いもでてきました。
幅広い診療の場がある呼吸器内科を選択したところもあります。それでも肺癌や難病は、研修医時代に担当することはなかったこともあり、当時は治らない病気を診ていくのは嫌だなとも思っていました。しかし、呼吸器内科に入局し呼吸器内科医としてそういった疾患を診ていくことで、患者さんの限られた残りの時間に関わっていくということが光栄なことだということを感じるようになりました。
呼吸器内科は超急性期も終末期も関わるという特徴があり、派手な手技を駆使してというではなく患者さんを手助けするという治療が多いと感じます。呼吸器内科は経過観察も重要な手技で、強い治療が必要なのか、経過観察が可能か判断することが重要だったりします。そんな呼吸器内科だからこそ醸し出す雰囲気というか、空気感があると思います。
「妄想呼吸器内科 エピソード0: 病原微生物への挑戦」坂本安見子
レジデントAは、たくさんの期待と不安をもって、呼吸器内科に入局した。研修医1年目に、呼吸器内科をローテーションしていたころ患者さんに言われた言葉を思い出す。「あなたも、たくさんの患者さんを助けられるような立派なお医者さんになってください。」だから呼吸器内科に入局した。患者さんとの約束を果たすため・・
そんなAのところに、呼吸不全の患者さんが運ばれてきた。なんだ、肺が真っ白だ。感染症なのか間質性肺炎増悪なのか…。気道内分泌物を採取することにした。ときは2707年、2014年とは違い、気管支鏡なんか使わないんだ。スモールライトで体を小さくして、ちっちゃなちっちゃなカプセルに入って、気管支内に噴射され、気道内に入って喀痰を採取してくるのだ。Aは、カプセルに入った。気道内に噴霧されると、患者の吸気に合わせて気管支内に到着した。体外では上級医たちが見守っている。あまりにも小っちゃくなったので、Aには微生物が自分と同じくらいの大きさに見えた。A「こ、これは・・レジオネラ?」Aは写真をとって外部に画像を送信した。上級医「むむっ。これはレジオネラのようだな。よし、検体を少量とってもどってくるのだ。」A「先生、聞こえません…」プープープー。無線が途切れた。
そのころ、Aは大変な事態に巻き込まれていた。通常、気管支亜区域枝の分岐部でカプセルをストップさせておくのだが、うまく引っかからず、肺胞内に流されてしまったのだ!A「駄目だ。このままでは、肺胞内の液体でカプセルが沈没してしまう!透過性は亢進していると考えられるため、間質へ漏出してしまう可能性もある!」しかも、無線がつながらない。ピンチだ!もう、こうなったら、患者に咳させてその勢いで出るしかない!Aは酸素マスクをしてカプセルの外に出た。微力ながら、死に物狂いで暴れてみた。「頼むから咳してくれー。」と、そのとき、ついに患者が咳をした!Aは無事カプセルとともに体外に脱出した。Aにくっついてきた喀痰検体を調べ、若手からベテランまでが集まって治療方針に対する話し合いが行われた。患者は適切な治療を受け、無事に退院していった。
数日後、疲れた体を癒すため、教授の家でバーベキューパーティが開かれた。
人の家だが、医局員たちはすっかりくつろいでどんちゃん騒ぎをした。
途中、疲れて寝てしまったAに病棟長Hがそっとタオルケットをかけてやった・・・
このように、呼吸器内科は一人ひとりの患者さんについてみんなディスカッションし、力を合わせ、ときには楽しく、ときには厳しく診療に取り組んでいます。
(この話は、一部フィクションです。)